東京地方裁判所 昭和56年(ワ)13691号
原告
赤松昭彦
右訴訟代理人弁護士
小口恭道
被告
千代田生命保険相互会社
右代表者代表取締役
中島正男
右訴訟代理人弁護士
常盤温也
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告
1 原告と被告との間で労働契約関係が存在することを確認する。
2 被告は原告に対して、昭和五六年一月以降、毎月二〇日限り金三二万三五〇〇円、毎年六月五日限り金六一万四五六〇円、毎年一二月五日限り金六一万四五六〇円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び第二項につき仮執行の宣言を求める。
二 被告
主文と同旨の判決を求める。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 被告は生命保険事業等を業とする会社であり、原告は、昭和四七年四月以来被告会社の従業員である。
2 被告会社は、昭和五六年一月二七日ころ、原告に対し、「千葉支社大原支部長在任中の不都合により昭和五五年一二月三一日付懲戒解職とする。」旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。
3 しかし、本件解雇は無効である。
4 原告の昭和五五年一二月当時の賃金は、月額三二万三五〇〇円、毎月末日締め翌月二〇日支払であり、また、賞与は、年二回支払で上半期は毎年六月五日支払、下半期は毎年一二月五日支払で、いずれも金六一万四五六〇円(基本給一八万四〇〇〇円の三・三四か月分)である。
5 ところが、被告会社は、原告との間の労働契約関係の存在を争い、賃金も支払わないので、被告に対し、労働契約関係の存在の確認及び賃金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の答弁
1 第一項の事実は認める。
2 第二項の事実中懲戒解職の意思表示をした日は昭和五六年一月三一日であるが、その余の事実は認める。
3 第三項の事実は否認する。
4 第四項のうち、毎月の賃金の支払の時期及び上半期分の賞与の支払の時期は否認するが、その余の事実は認める。毎月の賃金は、当月末日締切、当月二〇日支払であり、上半期分の賞与の支払の時期は六月二五日である。
三 被告の抗弁
1 原告の社員配当金等の横領
(一) 原告は、昭和五三年四月から同五五年三月まで被告会社千葉支社大原支部長の地位にあった。
(二) 被告会社は、昭和五二年当時千葉法人会に属する各法人企業と千葉法人会定期集団扱生命保険契約を締結していた。千葉法人会は、千葉県下の一〇の地区法人会により組成され、各地区法人会はそれぞれその地区内の各法人企業により組成されていた。千葉法人会定期集団扱生命保険契約は、千葉法人会の各地区法人会に所属する各法人企業やその役員、従業員との間に被告会社が生命保険契約を締結するものであり、千葉法人会は各地区法人会と共に右保険契約の保険料の集金、払込みその他の事務を取扱っていた。そして、右保険契約による社員配当金は、被告会社から千葉法人会へ、千葉法人会から各地区法人会へ、各地区法人会から各契約者へと順次支払われるものであるところ、事務処理の便宜上、各地区法人会の地区内の被告会社の職員(支部長)がその事務を取り扱っていた。原告の所属した大原支部は、茂原法人会内の大原地区所属の法人企業に関する社員配当金の支払事務を取り扱っていた。
(三) 原告は、大原支部長在任当時、前記のように茂原法人会内の大原地区所属の法人企業に関する社員配当金の支払事務を取り扱っていたところ、昭和五三年七月ころ、茂原法人会内の大原地区所属の法人企業に係る昭和五二年度分の社員配当金として、別紙第一記載のとおり合計金九万五〇二円を受領した。原告は、そのうち、1から4までの合計金五万八八三九円を顧客に交付することなく、そのころ費消横領した。
(四) また、原告は、昭和五四年一〇月ころ、茂原法人会内の大原地区所属の法人企業に係る昭和五三年度分の社員配当金として、別紙第二記載のとおり合計金九万六五六九円を受領した。原告は、そのうち1から6までの合計金八万二三一五円を顧客に交付することなく、そのころ費消横領した。
(五) 原告は、昭和五四年九月ころ、被告会社と夷隅郡市商工会連絡協議会との間の団体生命保険について、精算保険料(加入被保険者に返戻すべき保険料)として、同協議会から別紙第三記載のとおり合計金二〇万九三七〇円を受領し、そのうち1及び2の合計金一八万一一六〇円を夷隅商工会及び大原商工会へ交付することなく、そのころ費消横領した。
2 本件解雇
原告の右の横領行為は、昭和五五年一二月一一日、被告会社の社内検査により発覚し、原告も同月一六日横領の事実を認め、横領に係る金員を被告会社へ納入し、同月一九日始末書を提出した。ところが、原告は昭和五六年一月初めころに右の自白を覆し、横領の容疑をかけられた金員は既に顧客へ交付ずみであり、その領収書が自宅で発見されたと主張してきたので、被告会社において更に調査したところ、右の領収書は原告が事件発覚後各顧客宅を訪問して詐言を用いて発行させたことが判明した。そこで、被告会社は、改めて原告を追及したところ、原告はこの事実を認め、同月二一日に始末書を提出した。
原告の前記横領行為は、犯罪行為であり、また、金融機関としての被告会社の信用を著しく傷つける行為であるので、被告会社は、社内の懲戒委員会及び労働組合の意見を徴したうえ、懲戒解職事由を定めた就業規則中の賞罰規則第五条第四号(会社の信用を著しく毀損したとき)、第六号(会社の金銭、物品等をみだりに費消し、またはその取扱いに著しい不都合のあったとき)、第一三号(保険募集取締に関する法律および会社の定める諸規定に違反して、会社に迷惑をおよぼしたとき)及び第一四号(その他前各号に準ずる行為のあったとき)に該当するものとして、原告を懲戒解職処分としたものである。
四 抗弁に対する原告の答弁
1 抗弁第一項について
(一)及び(二)の事実は認める。
(三)のうち、原告が昭和五三年七月ころ被告主張のように社員配当金九万五〇二円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、右金員をすべて顧客に支払ずみである。
(四)のうち、原告が昭和五四年一〇月ころ被告主張のように社員配当金九万六五六九円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は右金員をすべて顧客に支払ずみである。
(五)のうち、原告が昭和五四年九月ころ被告主張のように精算保険料金二〇万九三七〇円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は右金員をすべて顧客に支払ずみである。
2 抗弁第二項について
原告が被告主張の二通の始末書を提出したことは認める。また、被告会社が懲戒委員会及び労働組合の意見を聞いたことは知らない。その余の事実は否認する。
五 原告の再抗弁
本件解雇は、被告会社の就業規則の一部である賞罰規則七条に違反し、無効である。右賞罰規則七条は、「懲戒処分は確証にもとづいて行い、かつ処分決定前に文書または口頭により本人に弁明の機会を与える。」と定めているところ、本件解雇は、「確証」に基づかないし、原告に「弁明の機会」を与えないでされたものである。
1 被告会社は、松本支部長らの予断にみちた報告等に基づいて原告の費消横領を認定したが、原告からの再度の事情聴取や関係者からの事情聴取及び原告の提出した受領書によれば、原告は横領費消していないという認定になったはずである。
2 被告会社は、原告から何回か事情聴取はしたが、原告に対して、費消横領行為を特定して、懲戒処分の予告をしたうえでの弁明の機会は与えていない。
六 再抗弁に対する被告の答弁
いずれも否認する。
第三証拠
証拠関係は、記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから引用する。
理由
一 原告が昭和四七年四月以降被告会社の従業員であったこと、昭和五三年四月から同五五年三月まで被告会社千葉支社大原支部長の地位にあったこと、被告会社が昭和五六年一月原告に対して本件解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。
二 そこで、被告の抗弁について考えると、まず、抗弁第一項(二)の事実は当事者間に争いがない。
次に、本件解雇に至る経緯について検討すると、(証拠略)を総合すると、次の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果の一部は信用できず他にこの認定に反する証拠はない。
原告は、前記のように昭和五五年三月まで被告会社千葉支社の大原支部長の地位にあり、昭和五五年四月から千葉支社の第三集団支部長となった。右第三集団支部に対する被告会社の社内検査が、同年一二月一一日に千葉支社内務課長の加藤真一によって実施された。右検査の実施の際、原告の保管に係る資料の内から、本来顧客に交付されているべき茂原法人会内の大原地区所属の法人企業に対する昭和五二年度の社員配当金明細書(<証拠略>)や大原商工会及び夷隅町商工会あての封筒が発見され、原告が大原支部長在任中の社内配当金の支払等に関する事務処理に不審が持たれた。そこで、加藤内務課長や千葉支社長の松本昇において原告から事情聴取をする等調査をしたところ、原告は、大原支部長在任中、大原商工会に対する精算保険料金一六万九一二〇円(別紙第三の2)、夷隅町商工会に対する精算保険料金一万二〇四〇円(別紙第三の1)、千葉法人会に属する茂原法人会所属の法人企業に対する昭和五二年度社員配当金六万九七〇七円(その内訳は、別紙第一の1から5まで)、昭和五三年度社員配当金八万二三一五円(その内訳は、別紙第二の1から6まで)合計金三三万三一八二円につき、着服横領したことを認め、同月一六日右と同額の金員を顧客に弁償すべく被告会社へ交付した。そして、原告は、同月一九日その旨の始末書(<証拠略>)を書いて被告会社社長あてに提出した。ところが、原告は、同月二五日ころ、前記着服横領をしたとの自白を撤回し、前記の金員はすべて顧客に支払ずみであると主張し、その旨を労働組合の役員にも連絡して善処方を要請した。被告会社の関東営業局長土井亮は、原告が自白を撤回したとの報告を受けたので、同月三〇日、原告から直接事情を聴取したところ、原告は、再び着服横領の事実を認めた。そして、原告は、直ちに労働組合の委員長に対して電話で迷惑をかけた旨連絡をした。原告は、翌昭和五六年一月七日ころ、大原支部長在任中の同支部の外務員であった塩田洋子とともに茂原法人会所属の法人企業である株式会社大原生コンクリート、有限会社アキバ時計電器店、有限会社石井ラジオ店、株式会社富屋呉服店、株式会社屋和多製作所及び有限会社大丸木工所を訪問し、また、原告一人で夷隅商工会及び大原商工会の事務所を訪問して、それぞれ受領書を紛失して困っているので再度受領書を書いてほしい旨依頼し、いずれも白紙の受領書用紙に領収印を押捺してもらい、後日、原告において受領金額及び金員の趣旨を記入し、受領書を完成させた。これが(証拠略)である。原告は、右の受領書を完成させたうえ、被告会社本社人事課に対し、さきに費消横領したとして始末書を書いた社員配当金等について受領書が自宅から出てきたと連絡をした。そこで、被告会社の千葉支社の内務課長加藤真一及び大原支部長岩瀬登において右受領書の作成名義人である顧客宅を訪問して調査したところ、各顧客は、配金当等を受領したか否かは不明であるが、受領書は同年一月初めころ原告又は塩田洋子から依頼を受けて白紙の受領書用紙に押印して交付した旨を述べた。被告会社において右の調査結果に基づいて原告を追及したところ、原告は、右の受領書は自宅から出てきたのではなく、最近になって顧客から入手したものであることを認め、その旨の始末書(<証拠略>)を提出した。更に、被告会社においては、原告の大原支部長在任当時の外務員であった関すみ及び塩田洋子からも社員配当金及び精算保険料の支払の有無について事情聴取をしたところ、同人らは、支払ずみであると思うとの趣旨の供述をした。被告会社は、以上のような調査に基づき、懲罰委員会の議を経て、別紙第一の1から5までの社員配当金六万九七〇七円、別紙第二の1から6までの社員配当金八万二三一五円並びに別紙第三の1及び2の保険料精算返戻金一八万一一六〇円合計金三三万三一八二円の費消横領を理由として原告を昭和五五年一二月三一日付で懲戒解職処分とすることを決定し(本件解雇)、昭和五六年一月下旬その旨を原告に通知した。
三 原告は、被告会社が本件解雇の理由とした前記の社員配当金及び保険料精算返戻金(以下「社員配当金等」という。)はすべて顧客に支払ずみであると主張しているので、この点について判断する。
まず、被告会社が本件解雇の理由とした社員配当金等のうち別紙第一の5の株式会社屋和多製作所の金一万八六八円については、成立に争いのない(証拠略)によれば、同社に支払ずみであることが認められ、被告会社においても本件訴訟においては本件解雇の理由としては主張していないので、この点については原告の主張は正当である。
そこで、右の事実を除く別紙第一の1から4まで、別紙第二の1から6まで並びに別紙第三の1及び2の社員配当金等について検討することとする。原告が大原支部長在任当時顧客に交付すべきものとして、職務上右の社員配当金等を含む別紙第一から第三までの社員配当金等を受領したことは、当事者間に争いがない。そして、そのうち、別紙第一の1から4まで、別紙第二の1から6まで並びに別紙第三の1及び2の社員配当金等について、原告が前記認定のように昭和五六年一月初め入手したものを別としては、受領書その他これを顧客に支払ったことを証する書面が存在しないことは弁論の全趣旨により明らかである。原告は、被告会社の大原支部長として、自らが顧客に支払うべきものとして職務上受領した金員については、それを顧客に支払ったときは、顧客から受領書その他支払を証する書面を受領してその旨を書面上明らかにしておくべきことは金銭を取り扱うものとしては当然の責務であって、右の受領書が存在しないことは、特段の事情のない限り、顧客にこれを交付しなかったと認められてもやむをえないものということができる。そして、本件においては、以下に説明するように、全証拠を検討しても、右のような認定を覆すに足りないといわなければならない。
まず、(証拠略)には、各顧客が前記の社員配当金等を受領した旨の記載があるけれども、これらの書証の作成の経過は前記認定のとおりであって、これと(証拠略)とを対比すると、これらの書証によって、顧客が右各書証に記載された社員配当金等を受領したことを認定することはできないといわなければならない。次に、前記認定のように本来社員配当金を支払う際に同時に顧客に交付されるべき社員配当金明細書が原告の手元に存在していたことは、社員配当金が顧客に支払われなかったのでないかとの疑いを抱く強い根拠となる。更に、前記認定のように原告は、被告会社の取調べに対して合計金三三万三一八二円の着服横領の事実を認め、その弁償のためこれと同額の金員を被告会社に提出し、その旨の始末書を提出しており、この取調べについて原告の意思を抑圧するなどの強制手段が加えられたことを認めるに足りる証拠はなく、この自白は、費消横領の事実を認定するについての有力な証拠となる。原告本人は、右の始末書を書いたのは、社員配当金明細書等の管理について手落ちがあったので、その点についての始末書を書いたにすぎず、また、始末書の文言については加藤内務課長からいわれるままに記載したもので真実に反する、と供述するけれども、単なる書類の管理上の手落ちと横領とでは行為の悪性において比較にならないほどの差があることは明らかであって、このことは原告も十分認識することができたものと考えられ、真実費消横領の事実がないとすれば、仮りに加藤課長から書くように迫られたとしてもたやすくこれに応じたとは考え難く、右の始末書の記載の信用性は高いものと認められる。また、前記認定のように、原告がその後顧客から交付を受けた受領書を自宅から発見されたと虚偽の事実を申告したことも費消横領の事実を窺わせる一つの資料と評価することができる。
もっとも、前記のように社員配当金が顧客に支払われたものと認められる別紙第一の5の株式会社屋和多製作所への社員配当金についても、社員配当金明細書が存在し、原告が始末書において費消横領したことを認めていることは、原告の始末書の信用性を疑わせる一つの根拠となるけれども、十数回の費消横領の中のごく一部についてこのような食違いがあったとしても、始末書全体の信用性を失わせるまでには至らない。また、原告は、法人会関係の社員配当金や商工会の保険料精算返戻金の取扱いは、本来法人会や商工会の内部において行うべきであって、被告会社の支部が取り扱うべきものではないため、これに関する受領書等の保存整理が十分に行われていないと主張する。(証拠略)によれば、原告の主張するように法人会関係の社員配当金や商工会の保険料精算返戻金については、被告会社から千葉法人会又は千葉県商工会連合会夷隅郡市商工会連絡協議会あて支払をし、その後の各法人企業や各単位商工会への支払は法人会又は商工会連絡協議会において行うのが本来の姿であるところ、従来から被告会社の大原支部がいわばサービスとして行っていたため、その金銭の出納の記録が十分ではなかったことが認められるけれども、それにしても、顧客へ現金を支払ったのに受領書を受け取らなかったり、その受領書を何らかの形で整理保管していなかったというのは、金融機関において現金を取り扱う者の事務処理のあり方としては極めて異例であってにわかに信用し難い。また、証人塩田洋子は、昭和五三年度分の社員配当金はすべて顧客に支払ずみであると思うと証言するけれども、その支払の受領書は存在せず、この点についての供述はあいまいであって、にわかに信用することはできない。
以上のように、原告に有利、不利な証拠を検討してみると、原告が顧客に交付すべきものとして受領した別紙第一の1から4まで及び別紙第二の1から6までの社員配当金並びに別紙第三の1及び2の保険料精算返戻金を顧客に交付したものと認定することはできないのはもちろん、原告がこれを費消横領したと認定されてもやむをえない事情があるというべきである。
よって、原告の主張は別紙第一の5の株式会社屋和多製作所の金一万八六八円に関する部分を除き、失当である。そうすると、被告会社が本件解雇の理由とした事実のうち別紙第一の5についてはその事実が存しないこととなるけれども、右事実の全事実の中に占める割合その他の事情を考慮するとこれによって本件解雇の効力を左右するほどのものとは認められない。
四 成立に争いのない(証拠略)によると、被告会社の就業規則の一部である賞罰規則第五条第一項には、懲戒解職の理由として、第四号に「会社の信用を著しく毀損したとき」、第六号に「会社の金銭、物品等をみだりに私(ママ)消し、またはその取扱いに著しい不都合のあったとき」、第一三号に「保険募集取締に関する法律および会社の定める諸規定に違反して会社に迷惑をおよぼしたとき」、第一四号には「その他、前各号に準ずる行為のあったとき」との規定があることが認められ、この認定に反する証拠はない。
原告は前記のように、被告会社大原支部長として、自己の保管に係る社員配当金等合計三二万二三一四円を費消横領したと疑うに足りる相当な理由があったのであって、生命保険業という特に金銭の取扱いについての厳正な態度の保持が要求され、信用の保持が求められる会社の支部長として極めて遺憾な行為であって、右就業規則の各条項所定の懲戒解職の理由に該当するものというべきである。また、右の事実関係からすれば、解雇権の行使が濫用であると認めることもできない。
五 原告は、また、本件解雇は、「確証」に基づかないでされ、また、原告に弁明の機会を与えないでされたものであって、賞罰規則七条に違反すると主張する。原本の存在及び成立に争いのない(証拠略)によると、被告会社の賞罰規則第七条は、「懲戒処分は確証にもとづいて行い、かつ、処分決定前に文書または口頭により本人に弁明の機会を与える。」と規定していることが認められ、この認定に反する証拠はない。ここにいう「確証」が何を意味するかについては、賞罰規則において何らの定めはないが、懲戒処分が安易に行われてはならず、懲戒事由の存在についての確実な証拠に基づいて行われなければならないとの当然の事理を明らかにした趣旨と解するのが相当である。そこで、被告会社が本件解雇をするにつき「確証」があったか否かを検討すると、前記認定のように原告が費消横領の事実を認めた始末書(乙第一号証)及び受領書が自宅より発見されたのではなく、後に顧客に書いてもらったものであるとの始末書(乙第二号証)を主たる証拠とし、これに被告会社における調査結果に基づいて本件解雇がされたものであって、懲戒事由の存在についての確実な証拠があったものと認めて差し支えない。よって、この点に関する原告の主張は失当である。
次に、原告に弁明の機会を与えなかったとの原告の主張については、前記認定のような本件解雇に至る経過からみると、被告会社においては、本件解雇の理由とされた事実について昭和五五年一二月一一日の社内検査の日から同月一九日の始末書の提出に至るまでの間原告から数回にわたり事情聴取をしたほか、同月三〇日にも土井局長が原告から事情聴取をし、翌昭和五六年一月中旬にも原告の提出した受領書について事情聴取がされているのであって、原告に十分弁明の機会を与えていることが明らかである。よって、この点についての原告の主張も失当である。
六 そうすると、被告会社のした本件解雇は有効であるから、その無効を前提とする原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく失当である。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 今井功)
別紙
第一 昭和五二年度社員配当金一覧表
1 株式会社大原生コンクリート 二万三八八四円
2 有限会社アキバ時計電器店 七二一五円
3 有限会社石井ラジオ店 一万四一〇八円
4 株式会社富屋呉服店 一万三六三二円
5 株式会社屋和多製作所 一万〇八六八円
6 有限会社大丸木工所(二口) 八〇〇〇円
7 木津水産株式会社 一万二七九五円
合計 九万〇五〇二円
第二 昭和五三年度社員配当金一覧表
1 株式会社大原生コンクリート 二万六九四八円
2 有限会社アキバ時計電器店 七二一五円
3 有限会社石井ラジオ店 一万五六五二円
4 株式会社富屋呉服店 一万三六三二円
5 株式会社屋和多製作所 一万〇八六八円
6 有限会社大丸木工所(二口) 八〇〇〇円
7 木津水産株式会社 一万四二五四円
合計 九万六五六九円
第三 保険料精算返戻金一覧表
1 夷隅商工会 一万二〇四〇円
2 大原商工会 一六万九一二〇円
3 御宿商工会 二万八二一〇円
合計 二〇万九三七〇円
以上